日本では、一部のボディビルダーやフィジーカーなどが使っているなんてうわさは聞いたことあるけど…くらいの認識ですよね。それがアメリカだと、一般人でも使用する人が多くいます。若くて高校生くらいから使い始める人もいるくらいです。統計によると、2015年の統計で高校三年男子のうち約2%がアナボリックステロイドの使用経験があると答えました。50人に1人です。質問の性質上、正直に答えるのをためらった生徒もいると仮定するともっと多いかもしれません。[1]
この記事ではステロイドユーザーとナチュラルをぱっと見で見分ける方法と数値で確実に見分ける方法をご紹介します。InstagramやYouTubeでよく見るかっこいいボディビルダーやフィジーカー、(もしかしたら)近所のジムで見かける明らかにレべチなマッチョなお兄さんがステロイドを使っているのかナチュラルなのか見分けられたら、勘違いで情報を鵜呑みにしないリテラシーが身につきますよね。
一つ注意点で、えげつない遺伝子の持ち主はユーザーじゃないのにユーザー並みのスペックを持っている可能性ああります。そのような人は血液検査をするしか方法はありませんので9割くらいの的中率だと思って読み進めてください。
ぱっと見で見分ける方法
短期間で明らかすぎる急成長を遂げる。
これは初心者であればあり得ます。ただ、初心者でもない人が年10㎏以上筋肉が増えたなどの場合はかなりグレーだと思ってください。初心者でなければ増えても5㎏前後です。5kgでもかなりすごいです。
常に絞れている
普通の人間はバキバキに絞れている状態を維持しようとすると筋肉が落ちてしまいます。また筋肉を落ちないようにしようとすると多少脂肪がつきます。ですので一年中常に血管浮きでまくりバキバキお兄さんはユーザーだと思ってほぼ間違いないです。
僧帽筋が目立って発達している
筋肉中には男性ホルモン受容体というものが存在します。
男性ホルモン受容体は通常自然に分泌されるテストステロンと結びつくことで反応し筋肉の成長を促しますが、アナボリックステロイドはテストステロンと化学的なつくりが酷似しているため男性ホルモン受容体と結びつき反応を引き起こすことができます。
そのため受容体が多く存在する筋群で顕著に違いが出やすいというわけです。
僧帽筋をはじめとした肩関節周辺の筋群は他の部位に比べ男性ホルモンの受容体が多く存在しています。
この研究ではパワーリフティング上級者(ナチュラル)、パワーリフティング上級者(平均9年のステロイドユーザー)、未経験者の3グループにおける男性ホルモン受容体を含む筋細胞核の割合を僧帽筋と大腿四頭筋で測定しました。大腿四頭筋における受容体を含む筋細胞核は全グループ一律で40%前後だったのに対し、僧帽筋では未経験者約55%、ナチュラル上級者約70%、ユーザー上級者約90%と、非常に大きい違いが見られました。
また筋細胞核そのものの数も未経験者→ナチュラル上級者→ユーザー上級者の順で比例し多く存在していることも分かりました。これらの研究結果がユーザーは非ユーザーに比べ僧帽筋の著しい発達が見られる理由を説明しています。[2]
数値で確実に見分ける方法
FFMI
ユーザーとナチュラルを見分けるための指標として使える数値はFat Free Mass Index(FFMI)です。おそらく皆さんBMIは聞いたことあるのではないでしょうか?BMIは身長と体重の比率で痩せ型か肥満かなどが分かる数値なのに比べて、FFMIとは徐脂肪体重と身長の比を用います。必要な情報は身長体重体脂肪率です。式は 体重㎏×(1-体脂肪率)÷(身長m)²です。
例:体重70㎏、体脂肪率15%、身長175㎝
70×(1-0.15)÷(1.75)²=19.4285…←FFMI
この数値が25以上になるとナチュラルでない可能性が非常に高いです。
FFMIの生みの親であるHarvard Medical School の Harrison Pope教授が1995年に行った研究によるとステロイドが簡単に手に入らなかった時代1939年から1959年のミスターオリンピア(世界最高峰のボディビル大会優勝者)の平均FFMIは25.4であったとしています。これがナチュラルの限界であると考えるのが妥当です。[3]そして2011年に再度行った研究ではユーザーの平均が23.3、ステロイド+成長ホルモン(またはインスリン成長因子IGF-1 )ユーザーの平均が26.2となりました。[4]
血液検査&尿検査
これでほぼ100%分かりますが、「あの人ユーザーかどうか気になるからトイレについて行って横から尿採取しよう」なんて人はいないと思うので説明は省きます。(笑)
最後に
見分け方を知ったからといって、ユーザーを批判して欲しいわけではありません。彼らは並の人間ではこなせないトレーニングに耐え、たくさんのものを犠牲にして人間の限界を超えた肉体を作り上げています。この記事はあくまでも情報リテラシーを高めることが目的であり、ユーザーのトップ選手のトレーニングなどを丸々まねしてオーバートレーニングになったり、彼らのような体になれないことに苛立ち筋トレを嫌いになってしまうなんてことを少しでも防ぎたいという思いで書きました。
この記事を読んで「ナチュラルの人たちより急成長できるしすごくすぐれた遺伝子持ってるってことにしておけば意外と使ってるのバレなさそう」と思った方もいらっしゃると思います。使うかどうかは個人の自由です。ただあげたらきりがないほどの副作用があることは間違いありません。そして、私が一番懸念しているのはアナボリックステロイドを使ってボディメイクをするのが一般化してしまうことです。場合によっては死に至ることもある副作用を知らずに始めてしまい取り返しのつかないことになってからではもう手遅れです。「ある程度ムキムキになったらやめるし大丈夫」なんてのは通用しません。覚せい剤などの依存性薬物と同じようにやめたくてもやめられない状況に陥ります。もしやめられても、やめた途端男性ホルモンの自然分泌がぴたりと止まり、ありとあらゆる症状が出てきます。
1.アナボリックステイロイド=悪ではない。常用しているボディビルダー、フィジーカーは副作用を承知の上でさらなる高みを目指すためにその道を選んでいること、そして中にはユーザーと疑われるほどの肉体を努力と才能で手に入れた人もいるということを理解してください。
2.ボディメイクのために一般人が使用するのは副作用を鑑みると決してお勧めできません。フィットネスの大義はあくまでも運動を楽しみ健康でいることなので、薬に依存すること、副作用で体を壊すことはフィットネスの大枠から逸れていると言えるでしょう。
[2]https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10664066/
[3] https://europepmc.org/article/med/7496846
[4] https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1521-0391.2010.00093.x